大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(行ツ)66号 判決 1973年5月22日

松山市大街道二丁目一四番地

上告人

日野善助

右訴訟代理人弁護士

泉田一

米田正弌

山澤和三郎

高松市天神前二番一〇号

被上告人

高松国税局長

伊藤庸治

右当事者間の高松高等裁判所昭和四一年(行コ)第九号所得税更正決定取消請求事件について、同裁判所が昭和四四年五月二三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人泉田一、同米田正弌の上告理由第一点について。

所論の点に関する原審の認定判断は正当であつて、その過程にも所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実に立脚し、また原審の専権に属する証拠の取捨判断を非難して、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)を論難するものであつて、採用できない。

同第二点および上告代理人山澤和三郎の上告理由第三点について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難して、原判決を論難するものであつて、すべて採用できない。

上告代理人山澤和三郎の上告理由第一点について。

原審の適法に確定する事実関係のもとにおいては、所論の点に関する原審の判断は、正当である。論旨は、ひつきよう、所論法令についての独自の見解に立脚して原判決を論難するものであつて、採用できない。

同第二点について。

所論の点についての原審の認定判断は正当であつて、その判示する所論推計の方法が合理性を欠くものと認め難いことは、明らかである。原判決に所論の違法があるとは認められず、論旨は採用できない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 関根小郷 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄)

(昭和四四年(行ツ)第六六号 上告人 日野喜助)

上告代理人泉田一、同米田正弌の上告理由

原判決は、我々の経験則に反する判断をなし、かつ採証の法則に違反しておるから破毀を免れない。即ち

第一点 上告人の収入金額について

1 上告人の収入金額についての上告人の主張に対し其の前半はその主張を認めたかの如きを判示をしている。即ち、共栄パチンコ店と上告人のホームランパチンコ店との入場者の比率は六八・五%であり、その比率により計算すれば上告人の主張の通りであるとこれを肯認しながら、其の後半に於てパチンコ一台の収入を此の比率だけで計算しこれをパチンコ一台の収入金とみることは早計であるから上告人の主張は採用出来ないといとも簡単に上告人の主張を退けている。

2 併し右原審の判断は経験則に著しく反している。

即ち、パチンコ台数が多く入場者が少なければ一台のパチンコ機の利用度は少なくなり、逆にパチンコ台数が少く入場者の割合が多い時は機械の利用度は前者に比較して多くなる道理である。

従つて入場者の割合が共栄パチンコ店に比較して六八・五%の上告人パチンコ店のパチンコ一台の収入は更に其の比率が減少して然るべきである。

3 試みに、上告人パチンコ店と共栄パチンコ店のパチンコ台数を比較してみると、

昭和三三年中の平均

上告人(ホームラン)六七四台

共栄 二二二台

共栄ビル 二五二台

共栄会館 二五五台

昭和三四年中平均

上告人 七三六台

共栄 二一九台

共栄ビル 四二一台

共栄会館 二三三台

である。右は第一審判決文付表第二に記載するところで上告人、被上告人とも争はないところである。

4 以上の事実を総合して判断するならば、共栄パチンコ店はパチンコ台数が上告人パチンコ店よりも遥かに少く、而も入場者の比率は上告人パチンコ店は共栄パチンコ店の六八・五%に過ぎないのであるから上告人パチンコ店の一台のパチンコ機械の利用度は共栄のそれよりも更にはるかに少くなるのが経験則から考えられる。

従つて上告人が共栄パチンコ店の一台当りの収入金に六八・五%を乗じて上告人パチンコ店の一台当りの収入を算出した事は寧ろ過大な見積りというべきで毫も不当ではない。

5 原審は砂川証人の六八・五%という証言は前項の判断に於ては必ずしも信用することが出来ぬと言いながら、本件判決を通じて其の正当性を支える有力な証拠にしている、都合のよい時はこれを証拠に援用し理屈が合わなくなると、これを根拠に判断することは早計であると否認する。もろ刃の剣として使用している。

6 経験則は方法の基を為すものであり、これに反するような原審判断は法律違反であり、破棄を免れないものと思料する。

第二点 原審は採証の法則を誤つている。

一、モナコパチンコ店は上告人の経営である。

1 昭和三三年、同三四年に於けるモナコパチンコ店の経営者は株式会社日野産業でなく上告人個人の営業である。

右の事実は原審判決理由の前半即ち、

三の(三)第一行目より次の頁の五行迄に述べてある通りである。

2 株式会社日野産業の設立年月日は昭和三一年八月一四日であり其の会社の目的には遊技場の経営、不動産の売買、食糧の販売及びこれに附随する事業が挙げられている。

乙第二〇号二参照。

然るに甲第二六号証の二、風俗営業遊技場(パチンコ)設備変更許可申請書によると

1 営業者住所として

松山市湊町三丁目三十五番地

2 氏名として 日野喜助

3 其の年令 明治二十年十月十二日生

4 営業の場所 松山市大街道二丁目二十四番地

5 屋号 モナコホール

となつて居る。

これが甲第二三号ノ一許可変更願に於ては

一、営業の場所 松山市大街道一丁目二四番地

日野産業株式会社

代表者 日野喜助

となつている。

右甲第二六号ノ一、二と甲第二三号ノ一、二を比較すれば個人と会社の混同でなくモナコホールの火災焼失迄は明らかに上告人個人が日野産業の建物を借りて、遊技場を経営し火災焼失後は日野産業株式会社に経営者を更めた事が伺はれる。中山証人も此の点については調べていなかつた旨を証言している。

二、雀球の経営者も上告人個人である。

1 雀球は松山市湊町二丁目三十五番地のホームランパチンコ店内に於て行はれ其の店を実際運営管理していたものは日野博行である。

2 其の店舗内の一部を改造し上告人の代理人として日野博行が雀球営業の許可申請をし従業員もホームランパチンコ店の者を使用し会計もホームランと共通で処理していたもので上告人個人の営業たる事に相違はない。

3 然るに原審は右は日野博行が営業許可を受けていたもので日野博行の営業であり上告人個人の営業とは考えられぬ。と上告人の主張を退けている。

4 以上二つの営業に対する原審の判決理由を比較して見ると全く矛盾した判決であるとのそしりを免れない。

前者は上告人個人の営業許可申請があつても日野産業株式会社が営業主体であり、後者は日野博行の営業許可であるから経理が共通に行はれていても、日野博行の営業で上告人の営業ではないと判示している。

右は全く上告人の主張を退け為めにつけた理由であつて良識のある判断ではない。

換算すれば、被上告人の主張を肯認する為めに採証の法則を無視し切り捨て御免の裁判である。

以上

昭和四四年(行ツ)第六六号 上告人 日野喜助

上告代理人山澤和三郎理由

第一点 雇人費について

控訴審判決理由において上告人のパチンコ事業の経費中雇人費については第一審判決の認めた限度において認容しその理由にも第一審判決理由を引用せられているところ、右のうちモナコパチンコ店の火災による臨時雇分は第一審判決にては上告人店にては不要な従業員であり恩恵的に雇入れたものであるから所得税法第一〇条第二項にいう当該総入金を得るための必要な経費と認めなければならない理由がないとせられているが、いかなる事業でもかような場合幾分多い人員を収容し従て全従業員の負担を軽くすることは多くの事例のあるところであつて、その場合必要経費でないとしているだろうか、殊に近時労働時間を短縮して、ために従業員を増員した例も多く或事業につき何人が定員と定められている訳でなく、右の如く所得税法の規定を解釈するとせば現時の一般事業の実態、労働関係法規上より考えて不合理であり、これが考え方如何によつては個人の生活権にも関係を及ぼす場合も考えられ、右の如く認定することは法律の解釈を誤るものと思料され、判決に影響を及ぼすこと明なる法令違背あるものと認められる。

第二点 消耗品費について

控訴審判決理由においては上告人のパチンコ事業経費中消耗品費については第一審判決の認めた限度で認容しその理由も第一審判決理由中の説示と同一であるとせられているところ、右第一審判決にては推計にあたり訴外共栄パチンコ店の昭和三三年度一台当りの消耗品費一、三二七円七九銭昭和三四年度分八四六円五九銭を基に上告人店の同費を年間平均台数を基礎に昭和三三年度分金八九四、九三〇円昭和三四年度分金六二三、〇六八円と認定し上告人の主張を排斥せられているが、消耗品費の如きものに訴外共栄パチンコ店の例(同店の両年度間の一台当り消耗品費は甚しく差あり、昭和三四年分は台数増加あるも、物価下落の為か、節約の為か昭和三三年分より著しく少い)をそのまま基準として適用しているのは全く了解に苦しむところで、他店の例をとるとせばその他の店、松山市外以外の近くに近似の多くの同業店舗もあるので、合理的な基準を計算することは困難でないのに、両年度間の差違甚だしい共栄パチンコ店の例をそのまま機械的に基礎として推計しての消耗品認定は審理不尽、理由不備と思料せられる。

第三点 災害補償費等について

上告人のパチンコ事業の経費に関し、昭和三三年二月一一日のモナコパチンコ店の出火による災害補償費については右モナコパチンコ店の経営者は上告人個人であるか、訴外日野産業であるかについて控訴審判決は第一審判決をくつがえし、右経営者は訴外日野産業であつて上告人個人でないと認定し、右認定の証拠として控訴審の証人中山常雄の証言を最も重要な根拠として採られているところ、右中山証人の証言は全く明瞭を欠き確信をもつて述べていないことは随処にあらわれており、日野産業の仕事を依頼されてから日野産業の経営と思うていたというだけで、同人の証言の如く経営者が誰かについては全く調査もせず、モナコパチンコ店の昭和三二年六月一一日の営業許可は上告人個人となつていること、昭和三二年七月から昭和三三年三月までの娯楽施設利用税を上告人が愛媛県松山県事務所へ納付していたこと(火災、同年二月)、モナコパチンコ店の昭和三二年六月一七日愛媛県公安委員会ヘモナコパチンコ店設備変更許可申請を上告人個人がしていること等の官公署への書類についても同証人は調べもせず、右店の経営につき上告人に代り全権を振つていた者の給料等の支出についても同証人は知らぬと述べており、かつ日野産業の経営であるとせば自己の財産に対し地代家賃を支払うことはないのであるが地代家賃についても分らぬと述べている程、同証人は会社経営上重大な要素につき何等の調査も関心もなかつた如き有様で、同証人の証言を経営者認定の最大な証拠としていることについては、控訴判決において松山遊技場納税組合専務理事宮内勇の証言を正確な調査を遂げたものでなく外観のみより見た証言としてしりぞけているのに比べて全く矛盾しており、一面上告人個人営業と見るべき多くの書証及証人の証言を措信しがたいとする控訴審判決の認定は採証を誤り判決理由に不備あるものと思料する。

即ち右モナコパチンコ店は上告人個人の経営とする第一審判決の認定は妥当である。

しかして本件災害補償費はパチンコ店経営を継続する上に必要欠くことのできない支出であつて、これについては上告人の主張は控訴審判決事実摘示「控訴人の主張」第四項のとおりであるので右を引用する。

以上

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